自ら勉強するようになった中1生の話
学習塾に勤めていたときの話である。
4月、新中1生のKくんが入塾してきた。彼は英語と社会が不得意で、苦手なものはやりたくないという正直者だった。好きな数学や理科は水を得た魚のように取り組むのだが、当時私が担当していた英語となると、目に見えて覇気がなくなる。
どうしたものか。他の講師や親御さんと相談して、「まだ中学生になったばかりだし、とりあえず少し触れるだけでも」という話になり、あせらず長い目で見ることにした。
そうして3か月ほど経ったある日。いつものようにやってきたKくんだが、英語の授業が始まると、もうそこにいつものKくんはいなかった。彼の様子を見て一瞬言葉を失った。
あのKくんが積極的に勉強している!
どうしたの?何が起こったの?その激変ぶりに質問せずにはいられなかった。するとこんな話をしてくれた。
看護師のお母さんが資格を取るために毎晩勉強している。仕事して家でも家事をして毎日大変なのに勉強もしている。ぼくも苦手な教科でもがんばらないと。
そしてそのことをお母様に報告。お母様は驚いて「家では何にも言わないんですよ。私が勉強していることにも気づいてないと思っていました」とのことだった。
子どもってよく見てる。そして何も言わなくても響いている。お母様の行動がKくんを180度変えた。背中を見せるってこういうことか。そして何より家族想いの心優しいKくんに胸を打たれ、目頭が熱くなった。
これまでも人が変わる瞬間を見てきているが、その中でもこの出来事は強く印象に残っている。
なぜこんな話を思い出したのかと言うと、友人Tちゃんが看護師になるために学生になったからだ。彼女には小2の子どもがいる。
去年子どもの小学校入学と同時に看護学校に社会人入学したTちゃん。「自分のことも不安だけど、小学校大丈夫かなあ」と子どもの心配をしていた。
そんな彼女に、私はやや興奮気味にKくんの話をした。お母さんの頑張りは子どもにも伝わるよ。
先日「どうにか学生2年目に突入したよ」と久々に連絡をくれたTちゃん。「あのときしてくれた話だけどさ」と切り出した。
「うちはちょっと早かったかな。小学校低学年だとテストはほぼ100点でしょ。私のテストを見て、『ママ、70点しか取れなかったの?ぼくは100点だよ』なんて言ってくるんだよ」
思わず笑ってしまった。そうだよね。それに下心があるのはダメだよね。
でもママの奮闘は感じ取っているはず。親子で点数を競い合っている微笑ましい光景が目に浮かんだ。