日々の記録

生後8カ月でお迎えした柴犬なつめと暮らしています。アイコンは先代柴犬よもぎ(2007~2022)です。

今だから話せる元彼のこと

大学生のときに付き合っていた彼は、11歳年上のフリーターだった。当時はそのことを周りの誰にも言えなかった。

 

彼と初めて会ったのは、コンビニのバイトの面接に行ったとき。働いている姿を見て私が一目惚れした。

入口の扉を開け、面接場所のバックヤードへ向かおうとしたその視線の先に、商品整理をしている彼がいた。その横顔を見た瞬間、自分でもびっくりするくらい胸が高鳴った。

 

無事採用されたものの、彼と同じ時間にシフトに入ることはなかった。気にはなっていたが、あれ以来全く会うことはないし、忘れかけていたころ。一緒に働いていた人が辞め、その彼と同じ時間に入ることが多くなった。

 

話をするうちに11歳年上だということを知る。若く見えたので驚くと、「よく言われる」とはにかんだ。長い時間働いているみたいだけど、バイトなのか社員なのかは分からなかった。

30代なら結婚しているかもしれないし。気持ちも盛り下がっていたそんなとき、なんと向こうからあからさまなアプローチが始まった。

「付き合っている人はいるの?」「連絡先交換しようよ」「2人でごはん食べにいかない?」

恋愛経験が乏しい私でも簡単に見極められる直球だった。

そして一目惚れした異性から好意をもたれ、舞い上がった私は、素性がよく分からないにもかかわらず、付き合うことにした。

ちなみに、出会った面接日のときのことを彼は覚えていなかった。一緒に仕事をするようになってから好きになってくれたらしい。私が一目惚れしたことは伝えていない。

 

付き合うことになってから分かったのは、彼はあのコンビニでバイトとして働いているということ。そして今はほとんど活動していないけど、役者の小さな事務所に所属しているということ。

「昔、ジャニーズの○○くんが出てたCMにエキストラとして出たことがあって、そのときこの洋服着て行ったんだ」自慢げに言ったわけではなさそうだったが、ふーんと軽く流した。芸能界に疎い私でも、その「○○くん」は知っている。でもそれを聞いても応援する気にはならなかった。

 

容姿がとてもいい彼と、顔にも体型にもコンプレックスしかない私は、どう大目に見ても不釣り合いだった。

顔も体型も気にしていることを告げると、「そんなことないよ」ではなく、「そこがいい」と受け入れてくれた。私がいいなんて趣味が悪いんじゃない?と心の中で悪態をつきながらも、その言葉に救われた。

そして不思議なほど穏やかだった。私のことを悪く言うことが全くなかったし、私が一方的に腹を立てるだけだったので、一度も喧嘩にならなかった。甘やかされ、調子に乗った私がわがままを言っても「心を開いてくれた」と捉えるような人だった。

 

だけど周りには本当のことは言えなかった。

彼氏ができた、と大学の仲間に打ち明けると「どんな人?」となるのがお決まりだ。あらかじめ用意しておいたのは「芸能関係を目指している4つ年上のフリーター」と半分だけ本当の設定。20代前半ならまだフリーターでもOKだろう、と自分の中の「世間体」が判断した。

もちろん彼にも、友達にそんな嘘をついているなんて言っていない。

どんな自分も受け入れてくれ、自分らしくいさせてくれる人を恥ずかしいと思う。そんなあさましい考えをもつ自分が後ろめたかった。

 

付き合い始めて約半年後、彼はその芸能事務所を完全に離れて就職た。私がそうさせた部分もある。

 

それから約2年お付き合いが続いた後、結局お別れすることになった。

 

後々、まだそんなに親しくないうちから「夫は一回り離れてて」とか「今の彼氏はバツイチで」とか、聞いてもいないのにさらっと情報開示してくれる人に出会うたび、私はあのとき何を守りたかったのだろうと考える。

そして、嘘をついたり隠したりしなければいけないほどのもの?とあのときの自分に問いかけたくなる。