祖母と『笑っていいとも!』観覧
今年から始まった『ぽかぽか』が『笑っていいとも!』に似ている、というネットニュースを読んだ。
例えば、毎日ゲストを呼んでトークしたり、そのゲストがチャレンジをしたり。司会の3人が面白い視点で話を聞いていくので、気になるゲストのときは録画して見ている。
その記事を見て、昔一度だけ『いいとも』に観覧に行ったことを思いだした。というか、後にも先にもスタジオ観覧したのはこのときだけだ。
あれは20歳のとき。母からの電話で「ばあちゃんが『いいとも見てみたい』と言ってる」と聞いた。
話しぶりからは「いつかハワイに行きたいな」くらいの熱量に感じたが、本当に行けたら喜んでくれそう。早速応募方法を調べ、郵便局へ往復はがきを買いに行き、必要事項を記入し、ポストに投函した。
こういう作業、普段ならなかなか腰が上がらないのだが、ばあちゃんのためならフットワークも軽くなった。
父方の祖父母は私が生まれる前に亡くなっていて、私にとってのじいちゃん、ばあちゃんは母方の祖父母だけ。同居はしていなかったが、車で20分ほどの距離だったので、よく会い、かわいがってもらっていた。そのじいちゃんも、私が中学生のときに亡くなり、大学生のときにはばあちゃんだけとなっていた。
でもそのばあちゃん、じいちゃんが亡くなってますますアクティブになった。じいちゃんが亡くなった当時60代後半だったばあちゃん。ペーパードライバーだったので、教習所で講習を受け、車を購入し、自分であちこち出かけるようになった。私の家にもよくふらっと遊びに来てくれた。
小柄で細い身体なのにパワフルで、着るものにものすごく気を遣うおしゃれなばあちゃんを、とてもかっこいいと思っていた。
はがきを送ってしばらく経ったある日。返信用はがきが届いていた。なんと当選。
早速母に連絡。私と母とばあちゃんで観覧することになった。
12月の木曜日。確か10時集合だった。新宿アルタ前に行くと、列ができていたので最後尾につく。並んでしばらく待っていると、当選はがきをスタッフの方がチェックしに来た。はがきを見せて、この3人ということを伝える。すると、別のスタッフのところに行き、何か告げている。
このはがき、違うのだろうか。ばあちゃんを連れてきたのにもし入れなかったら・・・とドキドキしながら待っていると、「こちらへどうぞ」と案内された。
言われるがままにエレベーターに乗り、7階へ。「しばらくこちらでお待ちください」と言うと、その方はどこかへ飛んで行った。私、母、ばあちゃんと並んで長いすに腰かけた。
そこはいいともの楽屋だとすぐに分かった。スタッフがせわしなく動き回っていて緊張感が伝わってくる。初めて見る世界に固まってしまい、ばあちゃんのことを気にする余裕もなかった。母をはさんだ向こう側で、ばあちゃんの目には何が映り、どんなことを感じていたのだろう。
木曜レギュラー出演者の一人が目の前で、「よろしくおねがいしまーす」とスタッフの方たちに声をかけている。横にいた母に「顔ちっちゃ!」と耳打ちしたことを覚えている。
しばらくすると、ぞろぞろと人が流れてきた。どうやら観覧者は、スタジオのある7階まで階段で登ってこなければならなかったようだ。それを70過ぎたばあちゃんがいたために、スタッフの方が配慮してエレベーターに乗せてくれたようだ。
放送後も合わせて、観覧は約1時間半。あっという間だった。
帰り道。ばあちゃんは「おかげさんで『いいとも』も観られたし、もういつでもあの世にいける」と、いかにも年寄りが言いそうな縁起でもない表現で、私を労ってくれた。
後日「『いいとも』の観覧に行った」ということだけを大学の友人に話した。だけど、楽屋に入れてもらい、優遇してもらったことは言わなかった。ばあちゃんとの特別な思い出。他の人には秘密にしておきたかった。
そんな話をしなくても場は十分盛り上がり、「えーいいなー。私も行きたい。ねえ、みんなで行こうよ」とひとりが言い、友達数人で何回か応募した。
しかし、毎回だれも当選することはなく、とうとうみんなで行くことはできなかった。
あの当選は、ばあちゃんが引き寄せてくれたものだったのかもしれない。