2023年3月15日:私のことよく見てる
この時期、あちこちから沈丁花の香りが漂ってくる。この独特な香りを嗅ぐと、いつもあのときの記憶がよみがえってくるから、いつまでたっても忘れられない思い出となっている。
だいぶ昔の、もうすぐ大学4年生になるというこの時期。私は周囲に後れを取らないことに必死になって、就職活動に勤しんでいた。
ある日の夜、私は当時お付き合いをしていた年上の彼に、その日あったことを話していた。
そして、こんな話をした時である。
今日ね、会社訪問で両国駅前を歩いてたんだけど、急にふわっと懐かしい香りがして。あたりを見回したら沈丁花が咲いていたの。それ見て、ああ全然周りを見ていなかったなと思ったんだ。
それを聞いた彼の反応は
へー、(私の名前)ってそんなことも思うんだ。
一瞬むっとしたが、この人私のことよく見ているなと思った。まだ付き合って半年くらいだったのに。コンプレックスだらけのこんな私にも恋人ができた、とまだ信じられないようなふわふわしていたころである。
若いころは本当に無頓着で、身なりが整っていないとか部屋が汚いとか全く気にならなかった。自然がどうこうという以前の問題である。沈丁花も実家の庭にあったから分かっただけで、当時は名前もうろ覚えだったという有り様であった。
そんな私も今では、整理整頓や掃除には細かくなっているし、四季の移ろいを感じたり、花や緑を愛でたりするようになった。
沈丁花の香りは、今年も自分の変化に気づかせてくれ、あのときでしか味わえないであろう切なさも運んでくれた。